アンソニー・ホプキンス(1937~)
ジェームズ・キャメロン少年に映画の素晴らしさを伝え、少年を映画監督への道に進ませた作品は、スタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙の旅』である。この作品においてデヴィッド・ボーマン船長役の日本語吹き替えを担当している人物は堀勝之祐。日本のSFアニメ傑作『攻殻機動隊2GIG』では、第18話にて義体を乗り換え活動を続ける国際テロリスト犯、アンジェリカを演じていた。他、堀はアラン・ドロン、ロバート・デ・ニーロ、ハリソン・フォードといった俳優の吹き替えを担当する事が多い。ホラー、ミステリー傑作、ジョディー・フォスター主演『羊たちの沈黙』では、ハンニバル・レクター教授の吹き替えを担当している。このあまりに印象深いキャラクター、レクター教授を演じた俳優、それがアンソニー・ホプキンスである。どっしりと落ち着いた静謐な演技によって醸し出される小気味良さが秀逸であり、物語に染み入る人物をしっかりと演じる人物である。

1937年、イギリスのウェールズにて生まれる。本名はフィリップ・アンソニー・ホプキンス。父はパン屋である。少年時代、学校生活に退屈しきったアンソニーであったが、持て余す時間を何気なく芸術に消費しているうちに、没頭。絵画やピアノ演奏、作曲に才能を示す。1952年、15歳、同じウェールズの役者、リチャード・バートンに強い影響を受け俳優への道を歩む事を決意。同年、演劇学校にて勉学を始める。1957年、20歳、同校卒業後は一時的にイギリス陸軍に所属。1959年、22歳にて除隊後、王立演劇学校にて更に本格的な演技の勉学を重ねると共に、同年から舞台役者としての活動を始める。1967年、30歳にて映画への初出演を果たした後、翌1968年、31歳、ピーター・オトゥール共演、1183年のイングランド王室を舞台にした『冬のライオン』にてリチャード役を好演、印象深い演技が高く評価され、注目を集める。ジョン・ル・カレ原作のスパイ作品『鏡の国の戦争』、第二次世界大戦時におけるイギリス兵のマーケット・ガーデン空挺作戦をモチーフとした史実作品、ロバート・レッドフォード、ローレンス・オリヴィエ、ショーン・コネリーら共演『遠すぎた橋』、ハンフリー・ボガード主演『必死の逃亡者』のリメイク版、ミッキー・ローク共演『逃亡者』――と続けて注目を集めた後、1991年、54歳、『羊たちの沈黙』のレクター教授役を好演、同作品の大成功と共に映画俳優としての確固たる地盤を築き上げる。以後は、オリヴァー・ストーン監督、リチャード・ニクソン元大統領をモチーフとした史実作品『ニクソン』のニクソン大統領役、ブラッド・ピット共演のヒューマンドラマ劇『ジョー・ブラックをよろしく』の富豪役、スティーブン・スピルバーグ製作、アントニオ・バンデラス共演のアクション劇『マスク・オブ・ゾロ』のスペイン貴族役といった具合に、物語に応じた様々な役柄を好演し続けている。2011年公開予定、マーヴェル・コミック原作のアクション・ヒーロー作品『ソー』では、全知全能の神オーディン役を演ずる。
3度の結婚暦がある。1度目の女優ペトロネッラとの間に1人の子どもがいる。2003年、66歳、ステラと結婚し、現在に至る。1993年、56歳にて大英帝国勲章「ナイト」の称号を授与。日時から曜日を算出する特技がある。人間の肉を食べる事はない。そもそも肉を食さず、ベジタリアンである。
ちなみに、彼はロバート・デ・ニーロの演技に対する姿勢を嫌い、「彼のやり方は馬鹿げている」と公言した事がある。ロバート・デ・ニーロの演技スタイルは、演じる人物像の容姿や仕事といった外面的な情報を徹底的に取り込む「キャラクター型」である。一方、アンソニーのものは、演じる人物像と物語との関係性といった内面的な情報を徹底的に取り込む「シナリオ型」である。日本の漫画、アニメ界において同例を挙げるとすれば、SFアクションコミック『北斗の拳』原作者の武論尊が「キャラクターこそが物語を創る」という構えを取る事に対し、映画『攻殻機動隊』を製作した押井守が「物語の中からキャラクターが生まれる」という構えを取っている――といった違いであろう。どちらが正解、という訳ではない。ヒーロー性を必要とするアクションやミステリー作品では前者の構えが有利であり、シナリオ性を必要とするヒューマンドラマ作品では後者の構えが有利である。「物語によって姿勢を変えよ」というのが、筆者の意見である。
ムービーデータベース(IMDb、英語)Anthony Hopkins (IMDb、英語)