[とびきり優しくも冷静、知性を伴う安心感、スティングや明日に向かって]

時代と共に過ぎ去る人びとには、何か麗しいほどの哀愁が漂うものである。こうした情緒を秀逸に描いて魅せた人物といえば、ジョージ・ロイ・ヒル監督が挙げられる。彼の代表作を2つ挙げるとするならば、実在の銀行強盗を描いたニューハリウッド作品の傑作『明日に向かって撃て！』、そして1930年代のシカゴを舞台にした詐欺対決『スティング』であろう。この2作品共に主演を演じている俳優がポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードである。優しくも冷静、知性を伴う安心感で、物語をどっしりと落ち着けてくれる人物である。
1936年、アメリカのカリフォルニアにて生まれる。本名はチャールズ・ロバート・レッドフォード、ジュニア。アイルランド家系、父は元牛乳配達員の会計士。異母の兄がいる。幼少時代から野球に才能を示し、1954年、18歳、コロラド大学進学後は野球特待生の投手として活躍する。が、同年、母親の逝去を機に酒を煽るようになり、チームから除名処分。直後に大学を中退し、画家を目指してヨーロッパを放浪する。1956年、20歳、画家の道を諦めアメリカへ帰国、演劇学校に通い、俳優の道を志す。1959年、23歳、ブロードウェイの舞台へ初出演。その後はテレビドラマ、舞台、映画などで小さな役をこなしながら地道にキャリアを重ね、1969年、33歳、『明日に向かって撃て！』にてポール・ニューマンと共に主人公役に抜擢、同作品の大成功と共に一気にスターダムを駆け上る。以後、『スティング』、『スニーカーズ』といったサスペンス作品、『大統領の陰謀』、『遠すぎた橋』といった史実作品、『華麗なるヒコーキ野郎』、『夜霧のマンハッタン』、『愛と悲しみの果て』といったドラマ作品など、幅広いジャンルの作品にて好演を続ける。一方、監督、製作としての手腕も見事の一言であり、『普通の人びと』、『クイズ・ショウ』、『モンタナの風に抱かれて』、若きチェ・ゲバラの姿を描く『モーターサイクル・ダイヤリーズ』やトム･クルーズ主演『大いなる陰謀』など、良質のヒューマンドラマを描き続けている。

2度の結婚暦があり、1度目のローラとの間に4人の子どもがいる。2度目のシビルとは2009年、73歳にて結婚し、現在に至る。これまでの俳優としてのイメージを大切にし、卑劣な悪役を引き受ける事はない。容姿や雰囲気がどことなく似ているブラッド・ピットは、心からロバートの事を尊敬しており、彼の事を「恩師であり、父親のようでもある」と語る。2人は1996年、ロバート63歳、ブラッド33歳にて『リバー・ランズ・スルー・イット』にて共演して以来の親交となる。それから5年後の2001年、『スパイ・ゲーム』にて、彼らは再び共演の機会を得た。

ちなみに、実際に起きたテレビ番組スキャンダルを元にした『クイズ・ショウ』の主演は、印象に残るイタリア系の顔立ちをしたジョン・タトゥーロであるが、それはさて、同作品にはトム・クルーズ主演『レインマン』、ロビン・ウィリアムズ主演『グッドモーニングベトナム』などを描いたバリー・レヴィンソン監督、及び『タクシー・ドライバー』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』などを描いたマーティン・スコセッシ監督の両人が堂々たるカメオ出演を果たしている。また余談であるが、マーティン監督のミステリーサスペンス作品、ロバート･デ･ニーロ主演の『ケープ・フィアー』は、デ・ニーロ演ずる婦女暴行犯役としてロバート・レッドフォードを起用する予定であった。が、先述の理由から、レッドフォードはこの役柄に同意しなかった。



ムービーデータベース（IMDb、英語）
Robert Redford(IMDb、英語）