[鮮やかなる物語に似合う、鮮やかなる登場人物、スティングや明日に向かって]

ハリウッド映画界において長いキャリアを持つ名俳優は多い。が、ある功績に至っては、未だに3人しか、それを成し遂げている人物はいない。1960年代、1970年代、1980年代、1990年代、2000年代と、10年毎に区切られた5つの年代において、アカデミー賞ノミネート、受賞を記録している俳優、それがマイケル・ケイン、ジャック・ニコルソンであり、そしてポール・ニューマンである。鮮やかな物語の中で、鮮やかな登場人物を見事に演じきる人物だ。
1925年、アメリカのオハイオにて生まれる。本名はポール・レオナルド・ニューマン。ユダヤ移民の家庭、父はスポーツ店経営者。兄がいる。当時のアメリカは今よりも人種差別が徹底されていた為か、父は自分たちがユダヤ人である事は一切話さず、ポールが明確な血筋を知ったのは成人になってからとなる。母の勧めもあり、幼少時代から劇団へ所属、1932年、7歳、ロビンフット劇にて初演技を経験する。が、当時の少年はあまり演劇へ興味を示さなかった。その後も演劇を続けるものの本腰は入れず、1943年、18歳、高校卒業後はセールスマンのアルバイトで日銭を稼ぐ。同年、オハイオ大学へ進学するも、一方で1939年、14歳の頃から勃発している第二次世界大戦は悪化の一途を辿り、1944年、19歳、アメリカ海軍として参戦。航空機の無線手、後部銃手として沖縄戦などに従事する。翌1945年、20歳、終戦後はオハイオ大学へ戻り、経済学を学びながらフットボールに打ち込むも、主張が食い違いチームから除名。この一事を契機として、俳優への道を歩み始める。地方劇団で地道にキャリアを積んだ後、1951年、26歳から舞台、テレビドラマなどで活動するようになり、翌1952年、27歳、ジェームズ・ディーン、マーロン・ブランドと共に名門演劇学校へ入学する。1954年、29歳、『銀の盃』にて映画初出演を果たすも、ジェームズやマーロンらに押される形で注目を得られず、しばらくはテレビドラマの活動に専念。1956年、31歳、ロバート・ワイズ監督『傷だらけの栄光』に抜擢、同作品の成功と共に一気にスターダムを駆け上る。以後は、『ハスラー』、『引き裂かれたカーテン』、『明日に向かって撃て！』、『タワーリング・インフェルノ』、『スティング』など、物語にも登場人物にも独特のセンスが光り輝くドラマ作品にて好演を続ける。1969年、44歳からは『レーサー』出演経験を機にプロレーサーとしての活動を始め、デイトナ24時間レースで5位、ル・マン24時間レースで2位など、見事な戦績を残している。2008年、83歳、自宅にて永眠する。

2度の結婚暦があり、それぞれに3人ずつ子どもがいる。2度目の女優ジョアンとは舞台『ピクニック』で知り合い、1958年、33歳にて結婚、生涯を共にした。先天的な色盲。アメリカ海軍でパイロットを志願した際は、この身体的理由から却下されている。レーサーとしての活動の他、政治活動、実業活動にも富んだ人物であり、公民権運動、反戦運動、慈善事業などに多大なる貢献をしている。加えて、前妻の息子であるスコットが麻薬依存により逝去してからは、麻薬撲滅運動にも熱心に参加している。尚、スコットは俳優として活動しており、『タワーリング・インフェルノ』にてポールと親子共演を果たしている。

ちなみに、ポールの代表作のひとつ、ビリヤードの勝負師をモチーフにしたヒューマンドラマ傑作『ハスラー』の原題は『Hustler』とそのままであるが、公開直前まで『Sin of Angels《天使たちの罪》』と銘打たれていた。これは《Hustler》が勝負師、賭博師、詐欺師といった意味の他、売春婦といった意味も兼ねられており、テーマの誤解を招く疑念があった為である。



ムービーデータベース（IMDb、英語）
Poul Newman(IMDb、英語）