[暴力と性、創造性と反体制、ハリウッド・ルネサンスを咲かせた立役者]

ジェームズ・ディーン主演『理由なき反抗』、『ジャイアンツ』にて共演した、当時ジェームズより5歳若かった俳優、それがデニス・ホッパーである。性格や信条が似ている事もあり、数ヶ月間という短い時間ではあったが、ジェームズとは大親友の関係を築いた。彼は演劇に対する情熱に妥協せずに独自の道を歩み、ニューハリウッド（アメリカンニューシネマ）という映画の流れを生み出した人物である。
1936年、アメリカのカンザスにて生まれる。本名はデニス・リー・ホッパー。父は郵便局長であるが、第二次世界大戦時はOSS（アメリカ戦略諜報局）で働いていた。これは現在のCIA（アメリカ中央情報局）。3人兄弟である。1945年、9歳、終戦後はサンディエゴへ移住。この頃から俳優への道に興味を持ち、1949年、13歳、ウィリアム・シェイクシピア劇を演じた際に才能を認められ、サンディエゴの劇団、ニューヨークのリー・ストラスバーグ演劇学校などへ参加し、演技の技術に磨きをかける。1953年、17歳、劇団へ所属し舞台俳優として本格的なキャリアを始める。１955年、19歳、ワーナーブラザーズと契約、ジェームズ・ディーン共演『理由なき反抗』、『ジャイアンツ』への出演を果たし、注目を浴びる。続いて『OK牧場の決斗』など数作品へ出演するも、自らの意見を曲げようとしないデニスは撮影現場においてスタッフたちと度々衝突し、問題児としてハリウッドと疎遠になる。小規模の映画へ出演する一方、画家、写真家、彫刻家といった芸術活動に専念した後、1969年、33歳、監督、脚本、主演を兼ねた、ジャック・ニコルソン共演『イージーライダー』を製作。ニューハリウッドの皮切りとなる同作品は圧倒的な支持を受け、再び脚光を浴びる。以後、映画会社との軋轢により順調とは言えないものの、フランシス･コッポラ監督『地獄の黙示録』、ジーン・ハックマン共演『勝利への旅立ち』、キアヌ･リーブス共演『スピード』など、様々な作品への出演を続ける。2010年、74歳、永眠する。

――ところで、ニューハリウッドとは如何なるものか。それには多少の時代考証が必要である。1940年代頃までのハリウッド黄金時代は、希望と夢に富んだ温かい作品が主流であった。人びとは新しい科学と文明を存分に享受し始めていた。しかし、世界は空想に浸ってもいられなくなった。第二次世界大戦、第一次インドシナ戦争、ヴェトナム戦争――と相次いで世界紛争の起こる中で、観客はハートフルな黄金時代を捨て、よりリアリティのある物語に共感したくなった。彼らが目を付けたのは、イタリア映画界を賑わせていたネオ・レアリズモ、言わばドキュメンタリータッチの映画製作の流れであった。こうして1960年後半からおよそ10年間、映画界は真実味、現実味に溢れた、暗く厳しい映画製作に取り組んだ。――と、これがニューハリウッドである。1970年後半からは世界の情勢もおおむね安定し始め、観客は再び温かな空想を求めるようになった。こうしてコメディタッチのヒューマンドラマ、アクション、ＳＦなどが再び瑞々しい息吹を取り戻し、我々に温かな感動や喜びを与えてくれるようになり、現在に至る。筆者はどんなに真実味が破綻しようとも、とびきりのハッピーエンド作品を好むが、あるいはこれも時代ならではの趣味趣向なのやしれぬ。

5度の結婚暦がある。2度目のミッチェルを除き、それぞれに1人ずつ、計4人の子どもがいる。先述の通り芸術家としても知られており、抽象性に富んだ画家、写真家、彫刻家として、世界中で個展が開かれた。

ちなみに、1993年、57歳、『スーパーマリオ　魔界帝国の女神』という映画に出演しているが、これはタイトル通り、日本人にはお馴染みの任天堂アクションゲーム傑作『スーパーマリオ』の実写版である。デニスは悪者の王、クッパ役での出演。同作品は製作費50億ドルが投入された大作であった――が、邦題も内容も、至極がっかりな出来となり、商業的にも大失敗に終わる事となる。『ゴジラ』然り、『ドラゴンボール』然り、日本の名作を穢すような映画製作は極力控えて欲しいものだ。実現の是非は不明であるが、スティーブン・スピルバーグ監督が日本の傑作ＳＦコミック『攻殻機動隊』の実写化権利を購入している。期待、している。



ムービーデータベース（IMDb、英語）
Dennis Hopper (IMDb、英語）