[社会と知性の重厚感、物議をものともせず、25時やマルコムＸ]

デンゼル・ワシントン主演の史実を基とした社会派ヒューマンドラマ『マルコムＸ』他、ミラ・ジョヴォヴィッチ共演『ラストゲーム』、ジャズをモチーフとした物語『モ'・ベター・ブルース』、ジョディー・フォスター、クライヴ・オーウェン共演『インサイド・マン』などを描いた監督、それがスパイク・リーである。知性的、社会的な物語の中に意義と価値のある重厚感を漂わせる人物だ。取り扱うのがアメリカ国内にて繊細なモチーフである為に激しい賛否両論を巻き起こす事でも有名だが、彼は娯楽文化に留まらぬ映画世界の可能性を明確に示してくれる。
1957年、アメリカのジョージアにて生まれる。本名はセルトン・ジャクソン・リー。父はジャズ音楽家、母は美術教師、及び黒人文学の小説家。監督名スパイクは、この母ジャクリーンによって付けられた愛称である。少年時代から映画への強い興味を持った彼は、1975年、18歳、モアハウス大学へ進学、同校にて本格的に映画製作の勉学を始める。1978年、21歳、『ラストハッスル・イン・ブルックリン』を自主製作、高評価を得る。その後も引き続き映画製作の技術を磨きながら、クラーク・アトランタ大学、ニューヨーク大学を経る形で勉学を続ける。1984年、27歳、大学院卒業課題として『ジョーズ・バーバ・ショップ』を製作、同作品は学生アカデミー賞の受賞。翌1985年、28歳、製作期間2週間、制作費16万ドルという限られた条件の中で『シーズ・ガッタ・ハブ・イット《She is gotta have it》』を製作、同作品もまた成功を収め、映画監督として大きな注目を浴びる。同年、世界的スポーツブランドであるナイキからCM製作の契約を得て、CM製作監督として活躍。同キャリアで一気にスターダムを駆け上った彼は再び映画製作に専念し、以後、上記『マルコムＸ』、『ラストゲーム』、『モ'・ベター・ブルース』、『インサイド・マン』といったデンゼル・ワシントンを主役に据えたドラマ作品、エドワード・ノートン主演『25時』、スティーブ・ハーヴェイら黒人スタンダップ・コメディアンの人気ツアーを追うドキュメンタリー作品『キング・オブ・コメディ』など、優れた社会派劇を描き続けている。

1993年、36歳、弁護士のトーニャと結婚し、2人の子供がいる。黒人、白人を巡る人種差別問題に積極的に関わり、メディアや作品を通じて数々の論罰を繰り広げている。作品のほとんどにスパイク自身がカメオ出演。ジャズ音楽家である父ビルの音楽を作中に使うこともあり、『モ'・ベター・ブルース』ではカメオ出演も果たす。デンゼル・ワシントンは何度も仕事を共にする親友同士であり、彼と同様にバスケットボールの熱狂的なファンである。支持するチームはNBAのニューヨーク・ニックス。他、サッカーも愛し、イギリスのロンドンを本拠地とするアーセナルFCのファン。

ちなみに、クリント・イーストウッド監督、第二次世界大戦時における硫黄島戦線を日米両国の視点から描いた作品、『硫黄島からの手紙』、『父親たちの星条旗』において、スパイクは同作品に黒人俳優がまったく出演していない事を鑑み、イーストウッドと大論戦を繰り広げた事がある。が、これはスパイクの誤解。時代背景を正確に考証した場合、硫黄島の激戦が行われた1944年6月時点では黒人が軍務に就く事は極めて稀、黒人兵士が急増したのは1944年12月以降の事であると言う。現在、両監督はすっかり和解をし、良好な関係にある。――もっとも、我々日本人はほとんどの場合、そんな事には気が付かぬ所であろう。日本と中国の繊細なる歴史的な軋轢同様、アメリカにおける白人と黒人は、依然として根の深い問題のようだ。



ムービーデータベース（IMDb、英語）
Spike Lee (IMDb、英語）