[飛んでかわして叩いてのして、リーを受け継ぐ愉快な武道芸術]

スティーブン・セガールがハリウッドにて演技指導者として活動している際、彼はアメリカではまだ無名であった香港カンフー使いの俳優と親友になった。ジャッキー・チェンである。彼はブルース・リーの築き上げたマーシャル・アーツの華麗な武道芸術に、ドタバタ喜劇時代のコミカルな躍動感を加えたキレのある動きで我々を楽しませる、カンフーの達人である。
1954年、中国の香港にて生まれる。中国の俳優名は成龍（シン・ロン）、本名は陳港生。ただし国共内戦の混乱期に生きた両親の家庭系図は複雑さを極めており、房仕龍が正式な本名であるとされる事もある。これは本人にも不明。両親は香港のフランス領事館の事務員である。幼少時代は暇なく随時飛び跳ね回っていた事から、炮炮（パオパオ）という愛称で親しまれた。1961年、7歳、両親がオーストラリアへ移住。ジャッキーは香港に残り中国戯劇学院にて生活、古典演劇の舞台に立ち、武道的な動きを含めた様々な演技の経験を積む。1971年、17歳、同学院の閉鎖、端役として映画へ出演するようになる。1972年、18歳にて『ドラゴン怒りの鉄拳』、1973年、19歳にて『燃えよドラゴン』と、ブルース・リーの作品にて重要な場面に登場するエキストラ役を演ずる。キャリアを重ねた後、1976年、22歳、演劇の世界を離れ、両親のいるオーストラリアへ移住。建設業のアルバイトをしながら大学に通い始める。同年、恩師である俳優ロー・ウェイからの出演打診を受け、香港へ戻り、自身も精力的に製作を手掛ける『スネークボール　酔拳』、『プロジェクトA』、『レッド・ブロンクス』などにて斬新なカンフーアクションを披露し、一躍脚光を浴びる。当時の映画界を牛耳っていた中国黒社会（マフィア）とのいざこざがあったものの解決し、1990年、36歳よりハリウッドへ進出。1998年、38歳、クリス・タッカー共演『ラッシュアワー』の大成功により、ハリウッド映画人としての地盤を固めた。以後、『ラッシュアワー』シリーズ、『シャンハイ・ヌーン』、『タキシード』、『80デイズ』、『ドラゴンキングダム』などのアクション映画への出演を続けている。2010年現在も尚、スタント、アクションはほとんど生身、1人で行っている。

1977年、23歳の頃、アジアの伝説的な歌姫と評される台湾の歌手、テレサ・テンと交際していたが、後に破局。1982年、28歳にて台湾の女優、林と結婚、1人の子どもがいる。アジアを中心に、ファーストフード式のレストラン、「ジャッキーズ・キッチン」を経営している。トム･クルーズやダニエル･ラドクリフと同様の失読症《Dyslexia》を患っていたが、現在は改善されている。ファンへのサービス精神が旺盛、気さくな笑みとも相まって世界の人気者であるが、屈託のない性格からか繊細な民族問題に対して大胆な発言をする事も多く、中国本土、特に台湾人のファンは少ない。

ちなみに、様々な伝説を生んでいるジャッキーのアクションであるが、中でも1983年、29歳にて出演した『プロジェクトA』における時計台の場面では、25ｍ地点からの落下スタントを3度も繰り返している。25ｍは6～8階建てのビルに相当するので、言うまでも無く、文字通り命がけのスタントである。脱帽としか言いようが無い。また余談ではあるが、同場面は名コメディアン俳優、ハロルド・ロイドの『要心無用』の時計台シーンを参考にしている。そしてハロルドもまた、実際に5階建てのビルにて、あの末恐ろしい場面を撮影している。



ムービーデータベース（IMDb、英語）
Jackie Chan (IMDb、英語）