渡辺謙(1959~)
アジア民族は時に、西洋系民族の美的感覚を見誤る事がある。そして、その逆もまた然り。リュック・ベッソン監督『TAXi2』、NBC製作の連続ドラマ『Hero』――のように、中国と日本を混成したような新日本文化を創設して日本人を笑わせるものもあれば、時代考証を必要とするマイケル・ベイ監督『パールハーバー』のような歴史作品にて大きな落ち度を示すものもある。江戸時代の終焉、明治時代初期を舞台にした『ラストサムライ』もまた、時代通の諸賢にとっては幾つかの難点を発見し得る作品と言えようが、全体としては日本の美的感覚がよくよく描写されている名作である。同作品の主演はトム・クルーズ、そして渡辺謙。渡辺は潔い貫禄と気迫溢れる表情で、近年のハリウッド映画に日本の風を吹き込んでくれる人物だ。
1959年、日本の新潟にて生まれる。両親は教師。父、渡辺亮一は後に画家として活躍している。少年時代はトランペットに打ち込み、1978年、19歳、高校卒業後、音楽大学への進学を志すも、家庭の経済状況からこの道を断念。演劇への道へ転換し、アルバイトをしながら演技のキャリアを重ねて行く。1983年、23歳、テレビドラマへ出演、1984年、25歳、映画初出演を果たした後、1987年、27歳、日本の時代劇連続ドラマ『独眼竜政宗』にて武将・伊達政宗を好演、俳優としての地盤を固める。1989年、30歳、急性白血病を発病。1994年、35歳、治療を終え、俳優業へ本格復帰。時代劇や若者向けのドラマへ出演後、2003年、44歳、ハリウッド映画『ラストサムライ』の勝元役のオーディションに合格、同作品の成功と共にハリウッド映画界に広く知られる日本人俳優となる。以後、クリスチャン・ベイル共演『バットマン・ビギンズ』、ロブ・マーシャル監督『SAYURI』、ダレン・ジャン原作ファンタジー『ダレン・ジャン』、レオナルド・ディカプリオ共演『インセプション』など、ハリウッドの大作映画の常連として出演を続けている。『硫黄島からの手紙』では日本人キャストの中で唯一、クリント・イーストウッド監督から直接の出演依頼を申し込まれている。ハリウッド映画が日本人役を必要とした際、真っ先に名の挙がる俳優と言えよう。
1983年、24歳にて結婚し2人の子どもをもうけるも、22年後の2005年、46歳にて破局。同年、女優の南と結婚し、現在に至る。日常会話を苦にしない程度に英語を話せるが、これは『ラストサムライ』のオーディション合格後から勉強を始めて修得した。料理、乗馬が趣味。阪神タイガースの大ファンである。
ちなみに、『ラストサムライ』のロケ地は長崎県、兵庫県、ニュージーランド、ハリウッドスタジオの4ヶ所。村や戦闘の場面に時折、外来植物が登場すると指摘されているが、これはそれらの撮影を主にニュージーランドで行った為である。また余談となるが、同作品に対してスティーブン・セガールが流石の日本びいきを発揮し、「俺は日本で育ち、格闘技を習い、師範の肩書きを得た。奴は日本語も喋れやしない。刀を抜いたこともない。」とトム・クルーズのキャスティングに苦言を呈したというエピソードがある。しかし、それで良かったのだ。セガールサムライの登場となると、1人で政府軍全員を相手にし、その上、勝利しかねない。しかもその場合、日本刀など不要、素手で十分なのである??
ムービーデータベース(IMDb、英語)Ken Watanabe (IMDb、英語)