[明るく温かい、楽天的かつ批判的、アメリカドラマの金字塔]

ジェームズ・スチュアート主演の　『我が家の楽園』、『スミス都へ行く』、『素晴らしき哉、人生！』といった傑作ヒューマンドラマ作品を手掛けている監督、それがフランク･キャプラである。アメリカの気風をふんだんに詰め込んだ明るく温かい、楽天的かつ批判的なヒューマンドラマ傑作を描き続けた人物であり、当時から現在まで、彼の作品はCapraesque《キャプラスク》として多くの人びとから愛されている。
1897年、イタリアのシリチアにて生まれる。本名はフランシスコ・ロッサリオ・キャプラ。ぶどう園を営む家庭。曾祖父が俳優。7人兄弟である。1903年、6歳、一家でロサンゼルスへ移住。父がオレンジ畑で働く一方、貧しかったこの家庭ではフランク少年も労働に精を出し、新聞売り、酒場のバンジョー弾きなどを行い生計を支えた。1918年、21歳、現カリフォルニア大学工科大学にて理化学を学び始めたが、同年10月、第一次世界大戦の勃発に伴い従軍する。2ヶ月後の同年12月、スペイン風邪をこじらせ除隊。同時期から次第に映画への興味を抱き初めていた彼は、幾つかの職を転々とした後、1921年、24歳にて映画会社に入社、映画の技術を着実に身に付け、1922年、25歳にて初監督の機会が与えられる。1925年、28歳、名コメディアン俳優チャールズ・チャップリンをこの世に送り出した映画監督、マック・セネットと共に仕事をするようになり、幾つかのモノクロ作品を監督、地道にキャリアを重ねていく。1928年、31歳、コロンビア映画へ移籍し、1931年、34歳にて『奇跡の処女』を製作、アカデミー監督賞と作品賞にノミネートされる。本作品から監督として注目を浴びるようになると、1933年、36歳、『或る夜の出来事』にてアカデミー賞主要部門とされる作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞の5部門を堂々受賞、輝かしい大成功と共に映画監督としての確固たる地盤を築く。続けて『我が家の楽園』、『スミス都へ行く』、ゲーリー・クーパー主演『群集』、『毒薬と老嬢』などのドラマ名作品を描いた後、1942年、45歳、第二次世界大戦の最中に陸軍へ志願し、陸軍所属の映画班として戦争ドキュメンタリー映画『われらは何故戦うのか』シリーズを製作する。1945年、48歳、終戦後は再び映画監督として活躍し、『素晴らしき哉、人生！』、『ポケット一杯の幸福』などの映画や、数作品のテレビドラマを描く。1964年、67歳にて引退。1991年、94歳にて永眠する。

1923年、26歳、ヘレンと結婚するも、5年後の1928年、31歳にて破局。1932年、34歳にてルーと結婚し、4人の子どもをもうけ、1984年、86歳、彼女が永眠するまで生涯を共にした。

ちなみに、1933年に製作されアカデミー主要部門を制覇した『或る夜の出来事』であるが、次にこの作品と同様の偉業を成し遂げるのは、1975年、ジャック・ニコルソン主演の『カッコーの巣の上で』。実に42年間も破られなかった記録である。しかしその一方、現在においてフランク・キャプラの集大成とも言うべき作品、1946年、49歳にて製作した『素晴らしき哉、人生！』は、興行面にて大失敗を喫している。不朽の名作として、アメリカ本国ではクリスマスシーズンに必ず放映され、映画学科の学生全員が鑑賞する同作品が、どうして当時の人びとの心を動かさなかったのか、不思議である。あるいは戦後まもなくの時期である、人びとの心はドラマを楽しむ余裕など無かったのやしれぬ。



ムービーデータベース（IMDb、英語）
Frank Capra (IMDb、英語）